食べある記・人間模様。
春の陽気に近づいて来たこの頃、のんびりしたいのもヤマヤマですが、
今年3度目の関西へ。
夕方の新幹線、人もまばらで気楽です。前も隣もガラガラです。
いつもの雑誌とご対面、ほとんど読まずに目的地まではウトウトして過ごします。
今回のjobは、心斎橋にある某会社のCEOにご挨拶、ちょっと緊張致します。
しかし、母の弟なので言わば、叔父さん。
とは言え、応接間までの関所には5人の秘書さんが目を光らせてチェックしております。
肩パット入りのスーツに着替えて来て正解でした。
有能なキャリアウーマン様達から見たら私は、ただのおばさん。
彼女達から微笑み掛けられると、かなり苦手な私。
靴の先までチェックされそうで、叔父に会うより緊張致します。
叔父も上京時にはご馳走をしてくれる間柄、今回はこちらからご招待致しました。
なので宿泊は、ちょっと奮発して(帝国ホテル大阪)にしました。
ここのセキュリティーは何処よりも抜群、エレベーターに乗る時もチェック。
エレベーター内のオシャレな一輪挿し。
そして、お部屋のキーを差し込まないと、絶対に動かないエレベーター。
ここまで強靭なセキュリティーなら、どなたも安心して宿泊出来ます。
以外と地味なカードキーですが、これがかなり役に立っております。
下りたら、和装のアテンダントがお出迎え。
重厚で、かつ静観な廊下を案内してくれました。
こんなにご丁寧な接待は、さすがインペリアルと云う由来でしょうか。
「お疲れでしょう。」と元気の出る平たいチョコレートもかわいい。
セレクトショップには、国宝級の重要無形文化財・井上萬二の置物が・・
目の保養になります。
こちらは(都内・帝国ホテルのみ)に置いてあります。
ただただ・・見惚れるだけでした。
さて、陽も沈み今回もお気に入りの料亭、ホテル内24Fの「☆☆万」へ。
季節によって変化するお料理が、とても楽しみ。都内・日本橋店の方には
森鴎外や夏目漱石が常連客であった事で、益々注目されて来た訳です。
店内静観で、他者の会話など聞こえない広々とした雰囲気、
なるほど作家の好みそうな空間です。
桜の季節も近いとあって、小枝のデコレーションと共に前菜が登場します。
いかにも大阪らしい飾りつけ。
極めつけは、これです。これぞ大阪!
ここまで凝ってくれますと、もう嬉しくなります。
プレートまでがアニマル柄。いいですねェこの自己主張。
ここまで徹底しているなんて、さすがです。脱帽。
お味付けも関西風の薄味で私など、到底真似など出来ないお出汁です。
小皿の中には、味の宝石が詰まっている様で、見た目も楽しめるのが魅力。
しかし、漱石の時代には、こんなデコレーション皿は無かったと想像致します。
もちろん今、現在もお味は抜群ですが、当時はもっとお味で勝負していたのでしょうね。
早めに目が覚め、朝食券持参でビュッフェへ。
「帝国」との名称には似付かない、何故か軽い天井オブジェ。
何だか、幼稚園のお飾りみたいで、ちょっと失望。
しかし、朝の新鮮フルーツと各種の焼きたてパンは魅力でした。
朝早くから、制服レディー達がたむろしていて
このホテル、KLMオランダ航空と何やら、提携しているらしく
朝のビュッフェには、制服の機長やらアテンダントの皆様が、
大勢でざわざわと、朝ご飯の真っ最中でした。
天井の幼げなオブジェ、外国人には受けが良いのかも知れません。
「皆様これから長時間のフライトですね。お気を付けて。」
さて、年に何回か滞在する関西ですが、未だに右も左も分かりません。
こういう場合は、自主的に電車をこまめに利用するのが一番。
先ずはコンビニを探して地図を購入。
心斎橋までの電車を確認、御堂筋線と四つ橋線とに乗ってみたのですが・・
とにかく梅田に着きました。
そうそう、ここは以前泊まったウェスティンホテルが近くにある駅。
この梅田と云う街、新宿とほぼ変わりない人の群れと群れ。
あちこちに何の表示も見当たらないし、人混みの苦手な私。
予想した通り(大人迷子)となり、結局タクシーでホテルまで辿り着きました。
「おかえりなさいませ」とコンセルジュさんに丁重なお言葉でお出迎えされ、
夕方戻ると、お部屋は隅から隅までクリーンです。
お部屋の入り口に在る、一見ルイ・ヴィトン風の椅子にホっと一息。
シャワーとバスが独立ガラスのワンルーム、
カーテン仕切りでは無いのも、大のお気に入りとなりました。
この日の夕食は心斎橋で予約済みの和食「☆月」へ。
ここのお料理は、何となく家庭料理風、おお味な所も有るけれど、そこが又、魅力。
左端の小皿は、穴子の稚魚。
目が合ってしまいました。ごめんね。
外食も良いけれど、こう長く続きますと
自分で炊いた五穀米のご飯が恋しくなります。
帰ったら、料亭板前さんの様にはいかないけれど
赤だしのお汁を作ってみたくなりました。
あちこち食べ歩くと勉強になりますが、鰻のお料理だけはちょっと無理。
関西からの帰りには、時々寄るのが神楽坂の鰻屋さん「☆満金」。
ここに来たら、必ず(ホタテのぬた)と(鰻肝の甘露煮)をお願いします。
(鰻肝~)は、多少濃い味で辛め、いかにも関東風です。
百三十年続く老舗の秘伝のタレを、今も変わりなく伝えておいでで
作家、泉鏡花が常連であったのは有名ですが、
たまたま鏡花は神楽坂近辺に住んでいたらしいのです。
その他には、私には衝撃的だった小説「墨東綺譚」の作家、永井荷風。
彼も、ふと来ては鰻重を味わいながら、パイプを噴かして居たのだとか。
荷風と云えば、元祖・瘋癲ちょい悪オヤジ、外語大を欠席し過ぎで退学し、
その後は、自伝的作家人生をまっしぐら。
自由気ままな生活をエンジョイしていた、お坊ちゃまフーテン老人だった方。
まあ、作家と云う職業柄、珍しく無いのかも知れません。
現に、谷崎潤一郎でさえ、この「☆満金」の鰻をいただきに、いらしていたとかで。
何と云っても神楽坂、この奥深い小道には沢山の秘めた出来事も有った訳です。
故人を悪く言うのはバチ当たり、この由緒ある界隈では
口が裂けても口外する人は居ませんが
知る人ぞ知る、かの田中真紀子さんのお父上、
角栄さんの第2の御家庭もこの界隈。
お正月ともなれば、息子二人の居る神楽坂の別邸からは帰らなかったと云う角栄さん。
ですから「お正月は大嫌い」・・と豪語していた本宅の真紀子さんが
豪気な政治家になるのは、当然の事だったのでしょう。納得。
角栄さんだとて、一度は「☆満金」さんの鰻を出前して頂いたのではないでしょうか。
作家の皆さん達も、お国の重要VIPの方々も、
ちょっと甘めの、この歴史ある秘伝のタレにはゾッコンだった様です。
お食事の最後には、必ずお抹茶と和菓子の(御口直し)を出して下さいます。
ここは、元々裏千家の茶室も在ってか
お着物姿のご婦人の集うお座敷も在り、風情を感じる事が出来る場所でもあります。
お国の歴史に刻まれた方々を、百年以上も前から静かに見守っていたのですね。
なんだかんだと、出掛けているうちに、もう3月も半ばとなり
引越し先のインテリアの準備などと、外出時間が多くなる昨今
花粉に負けず、今年の春もグズっと鼻水を押さえつつ
予定をクリアして行きたいと思うのです。
ではまたね。